あの女 またしても「なーに、やってんの。」またしても息をのむ。夢の中で、いろいろ言っていくあの女ではないか。 「どうしてあんたがここに?」 「そんなことよりも、あなたね、いろいろと考え込まないことよ。」 その女は、バックから見たことのない外国産だろうか、たばこを取り出した。そして、ポンポンと銀紙の箇所を指でたたいて、そのうちの一本をとりだすと、100円ライターで火をつけ、口にする。 軽くひとくち吸い込み、ふーっとはきだした。 「ちょっとねえ、会社内は禁煙なんだけど。」 女は柴の言葉を無視するかのように続けた。柴はなんと自己中心的な女だ、と思った。 そういう女は、柴は得意ではなかった。 「あの女は、しっかりとつかまえておかなと駄目よ。あなたのためなんだからね。」 「あの女って、松林のこと?そんなことわかってますよ。いわれなくたって。」 「そうよ。ああいうことにもなったんだし。」 女のはきだす紫煙が、いつもは無臭なオフィス内にほのかに漂いはじめた。柴の鼻にも伝わってきたが、ただ、普通のたばことは違うような感じがした。 「灰が落ちるじゃないですか。カーペットに跡がのこるとヤバいですよ。でも、ああいうことって、なんですか。」 柴自身、あの経緯が夢か現実かわからなくなっていた。 女は、バックから小銭入れ大の吸い殻入れをとりだし、3センチほどになっていたたばこの先の灰を、人さし指でポンポンと落とした。そして、また口につけて、こんどは深く吸い込むと、ふーっとはきだした。 「自分が一番、よく知ってるでしょ。」 女は、事務所のなかを歩き、部長のデスクに座り足を組んだ。スレンダーな足で、まるで、柴を挑発するかのような組み方だ。 「ここが、意地の悪い部長さんの席ね。」 何をいわれても、柴は驚かなかった。言うに任せるかたちであった。 「さ、てと、くれぐれも宝くじと地球最後の日は忘れないでね。じゃあ、行くわね。」 柴は金縛りにあったような感じに見舞われた。声をだして呼び止めようとしたが、またしても声がでない。足も動かない。 その金縛りがとけたのは、女がいなくなってしばらくたってからだった。 しかし、あの女は何者なんだ。道路に面した窓から下をしばらく見やったが、女の姿をみることはできなかった。 そのとき、柴の携帯が鳴った。 |